3/14〜3/24「さくらの花束」雑感。こっちにきてはいけないとしても、私はそっちにいきたい。

3/14〜3/24「さくらの花束」

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すっかりハマった季節だった。内容はスタンダードなのに、どこか思うことも多い演劇で、℃-ute、研修生の一岡さんと野村さんも、福永マリカさんも、藤井千帆さんも、菊池友里恵さんも、演技が力強くリリカルで美しかったからだとも思う。それから、トークショーで垣間見れるだんだんと仲を深めていく座組。それが舞台に反映してるのをみるとまた、うれしくなった。ネタバレを避けて書いていたりしたから薄まってしまったけれど、本当はもっとつぶさに言葉にしておけばよかったなとも思った。



全部で8公演(BASE,BIG×2,BOX×4)+トークショー。

3/14 BOX
3/16 昼BIG
3/17 夜BOX(トーク)
3/18 BASE(女限)
3/20 夜BASE
3/22 BOX
3/23 夜BOX
3/24 朝BIG昼BOX。

女性限定と22日のBOXはなんとなく空きがあったなぁという印象がある。女性と男性の笑うツボが違う。例としてはBASEのうさぎのところ。BIGの映美の「顔まるいのに楽しそうなの」。そしてBASEの成り上がりのくだりとかは女性にあまりウケない。


全3公演。開始時間はよーいドン。
私はBOX(生徒会室)→BIG(教室)→BASE(演劇部部室)の順で観劇。
それで、やっぱりこの3館同時公演。最初にみた部屋の人物に思い入れができてしまうのではないかなと思う。教室からみたらまたちょっと違ったのかもしれない。教室は俯瞰。他2部屋はクローズアップ。だから教室を通らないと物語が分からないようになっている。私が最初に出会った生徒会室をベースに。完全にネタバレ注意ですし、3会場見ている人向け。あくまで忘備録。あと長い。



左からかのこ、リカ、みちる、メイ、咲子。





教室でみちるに言われる「委員長らしくないじゃん?」何気ないひとことでさえ、生徒会室の2人をしっていて、胸に刺さる。他にも教室の華やかグループで語られる(=校内にひろまっている噂)、咲子(委員長)と光くん(生徒会長)は、あやしいという与太話。卒業アルバムの中でも、いつも隣にいることを発見され、いつも冷たい表情の咲子も光の前だとちょっとかわいいかも、なんて言われるほどに無防備な姿が人の目に触れるところまでもう、にじんでしまっている。迂闊だ。ああ、そうか。委員長は完璧ではないのか。氷のような冷たい表情を持つ品行方正なガリ勉、ではない。反転するイメージ。誰にも巻き込まれないように凛としてみえる委員長は、それからも周りに感化されて、かき乱されて、欲望をむき出していく。BASEで一瞬感情を露わにする咲子をみてまたイメージが反転する。これは初期から気になっていたことだったけど、グループも部活も違う、秘密を共有してるわけでもない、ただのクラスメイトで一番接点のなさそうな咲子と後藤あかりの関係が気になっていた。すべての舞台をとおして浮かび上がった後藤あかりをみて少しだけピンときた。後藤あかりは誰にも巻き込まれない人だった。それもそのはず、渦の中心の人だから、誰にもなびかない。だから委員長も一目置いていたのだと思った。実態のない「好き」の正体を知りたがった委員長と、なんだか妙にそれを知っていそうなあかり、という関係だったのかもしれない。委員長は冷淡な人、という印象を最初に与えられるけれど、本当はとても感化されやすい女の子の中の女の子で、だけどその感情をすんなり身につけられなかった不慣れな女の子でもあると思った。ふと人を好きになって、自分の感情を整理できなくなった。真面目にこなせば、今まではどんなことだってできたはずなのに、「どうして」が委員長の中で胸やけを起こしている。「こんなこと今だけかしら。それとも一生続くのかしら。」冒頭に咲子がひとりつぶやく台詞。「一生続く」と言った時の咲子の諦めたような、だけど温まるような顔を忘れない。



女の子らしさというのは例えば「素直さ」であるとこぼす、咲子。「かわいいは正義って感じの素直さ。だから私は女の子らしくない。」咲子のしっかりしなきゃの気負いが「人の感情に巻き込まれてはならない」に及んで、だから今まで毅然としてきたけれど、恋をしたらそれは両立できないことだと知ってしまった。光の隣にいたいから、友達の顔をして生徒会にも入って、こんなずるいことやめなきゃって思い続けて、でもやめられない。恋を優先させれば人を巻き込み、感情をぶちまけ、欲望をあらわにすることになる上、結末は決してハッピーとは限らない。最悪、光を友達としても失う。恋をすればするほど未来を描けなくなる。咲子は生徒会室に飛び込んできた後輩のただならぬ雰囲気に動揺する。いつもなら流せるはずの図星も、動揺を露わにしてついに苛立ちをかのこにぶつけてしまう。


光と咲子には、そもそもの馴れ初めみたいなものがあった。合唱コンクールで、みんなの前で音を外して先生に注意されたことを話し始める咲子。見た目よりも思い悩んでいて「もう、行くのやめようかと思った」そのくらい。「なんで?咲子の声きれいなのに」光は気付いている。「咲子の声、きれいなんだから自信持って歌いなよ」あの時と同じように気付いてしまう。誰も気にしていなかった些末なことを光は気付いてしまう。咲子といると落ち着く、とかそういったなにげない言葉を咲子は信じる。信じて、はにかむ顔を隠せない。咲子は誰がどう見ても美人だよ、と思ったままを言う光。そんな客観的な意見に釈然としなくて「顔が整っているとかそういうこと?」と、光にじわじわと問いただしていくところなんかは、多数決じゃなくて、光だけがみている私が欲しくて走り始めてしまうようで、本当にうずうずした。あの時の矢島さんは女の顔をしているな思ったし、かわいいけど憎らしくて少しこわい。


咲子が光に告白するシーンは、友達の顔してそばにいた自分のズルさに耐えられない懺悔の意を感じて、そこに人間の業の深さをみて、目が離せなくなった。だけど2回目、いや3回目みた時に、なんとなく違うような「感じ」がした。咲子が告白するずっと前に、光は打ち明ける。校内中から「好き」を浴びせられる王子様を演じていた光が、「同性が同性を好きなるとかそういうのは正直、気持ち悪い」という内心を咲子にだけ吐露してしまう。あの時の咲子の動揺した顔、初日にみた時は、きょろきょろと所在なさげに動くだけだったのが、8日ぶりにみた2度目の生徒会室での咲子は、瞳までひきつるように苦しかった。「きもちわるい」大好きな人からの決定的なワードを受けたにも関わらず、咲子はそれでも告白する。だったらもうそれは自分の思いを叶えるために告白したんじゃない。道化だったと自分を笑う光を、ただ助けたくて、王子様以外の光を見ていた人間もここにいるよ、ただそれだけを伝えたくて、告白する衝動と純潔だった。例えばそれですらエゴかもしれないけれど、他人だけをそこまで思うこと、きっと光にも人を思う気持ちがわかるから、伝わったから、一度咲子を完全に拒絶しても戻ってきた。道化のジャケットを剥いでくれたのは、いつも隣でみてくれていた咲子だったから。光が咲子に気付いてくれたように、咲子も光に気付いた。「みんなの前にいる光も好きだし、2人でいる時の光も好きよ」



「もしかして委員長も光くんファン?」
演劇部でかのこに感情を粒立ててしまう咲子を急き立てた台詞。軽々しい。かのこは軽々しく人に踏み込む。それは現実もやり直しのきく物語だと思っているか、自分が描くシナリオの面白さばかりに気を取られ、他人をないがしろにしてしまうから。なのに、こんな時に、的を得るかのこには笑ってしまう。いや、かのこはいつも的を得てしまっている。みちるとタカシ君とか、リカも、あかりも、こうやって委員長にも。その活用できない間の悪さがどうしようもなく笑える。人生を遠巻きにみると、こんなふうに喜劇。少しの希望だった中学では仲の良かったみちるとの約束も軽々しく破って。誰も信じていないし、誰も信じられないかのこ。当たり前だけど、かのこのシナリオ通りに進まなくなる現実。苛立ちを覚え、誰もわかってくれないんだと虚構の世界で籠城しようとする。痛々しいくらいに自己主張をするかのこがスイッチをきって「私はここにいるよ…」と机に突っ伏すあの時、急に笑えなくなる。悲劇だったのだ。ずっとかのこにとっては悲劇ばかりだった。他人との距離の測り方がわからなかった、かのこ。かのこの高校生活たったひとつの拠り所である演劇でとった賞。指紋でべたべたになるまでかわいがるトロフィー。作・演出・出演・衣装その他すべて私の舞台。


「こっちにきてはいけないよ そんなことをしてはダメなんだ」
劇中にこの台詞を何度か叫ぶ、かのこ。大人になると赤信号で止まってしまう。それはダメあれはダメ。そんなことなら大人にはならない。屈折しているようで人柱に当たらない分跳ね返らず、どこまでも思うまま突き進んでしまう、かのこ。何かをしたい。他人とは違うことを。自分を証明したい。そうして底辺(と呼ばれる)の演劇部で大きなことを企てるかのこ。同じクラスだからという理由でふらっと演劇部に現れたあかり。何もしなくても目立つあかりと何かしても目立たないかのこ、の邂逅。「誰もしていないことをする」と、あかりに説くかのこは、あかりの言葉に意味が分からないと言った顔をする。「誰もしていないことは、する必要のない事だよ」。さあ、赤信号でとまっていたのは誰?

たぶん、赤信号でとまっていたのは全員。この演劇のテーマは特別を欲しがることだと思った。リカは嘘のない関係を欲しがった。みちるもまた同じだったし、彼女は特別な男も手に入れる。光は王子様以外の自分を欲しがった。咲子は特別な感情を欲しがった。かのこは特別な目線を欲しがった。みんな正直な自分を欲しがった。自分でこっちにきたらめんどうだ、そんなことをしてはかっこわるい、ダメなものはダメと自覚したり、秘密を育てながら彷徨っていたけれど、メイは違う。メイは自分ですべて決めてしまっていて、自己主張がなく、実はあかりのような人にみえていた。だからどの部屋にいても、適度に浮いていて、特異な存在に映る。メイが叫び続けたのは「仲良くしよう」だった。メイはずっと黄色信号で点滅している。やめようよ、なかよくしようよ。メイは危険を察知して、ただ危険因子のそばにいた。それは少しだけ、みんなより早く他人のために生きていたからなのかもしれない。物語が収束していく中で、それぞれはそれぞれに向けられた特別に気付く。咲子には何を知ってもやっぱり光が特別で、光は先生の画の特別さに気付くけれど、それだけじゃなく自分に向けられた特別にも気付いた。みちるはリカの特別さに気付く、リカはメイの特別さに、メイにとってみんなはたぶん、元々特別だった。中でも最初に声をかけてくれた、あかりちゃん。そのあかりは、最後にかのこに、特別をゆるす。「かのこなんてボイコットしたんだよ?バカだよね」そうやってみちるがリカの携帯電話を使って、あかり宛ての留守番電話にメッセージを入れたから、いつしかあかりからかのこへメールは届き、物語はあのシーンを迎える。思い返しても、美しい演劇部のラストシーン。涙を笑って吹き飛ばす顔が中島さんにしかできない、うつくしく晴れた顔。それから、生徒会室のラストシーンも好き。「さくらは満開をみているのが一番。散ってしまったらゴミよ」と教室に吹き込んださくらの花びらを、意味のないものとしてみつめていた咲子。冒頭の方から何度か置かれたその台詞が、叶わないであろう咲子の思いが明らかになっていくたび重なって苦しい。ラストに失恋に崩れ落ち、それでも光は友人として自分をゆるしてくれた。咲子は床に落ちた花びらをひろい、自分の胸に置く。光のジャケットと一緒に。


そういえばこれは何となく思ったこと。


あかりが修学旅行の時、ふらふらと一人行動をして映画をみていたという話が教室であった。腹を立てるリカ。「きっと何か理由があったんだよ」と宥めるメイの言葉で、ふと思う。あかりは映画をみにいったのではなく、かのこを探していたのではないか。それは移動教室で穴にハマったかのこを助けたのもあかりだと生徒会室で聞いていたからだと思う。それから、演劇部の後輩の行方が気になった。あの2人は救われないまま飛び出してしまう。その後のことが分からない。だから、なんとなく最後に校歌を弾いていたのは下級生の二人だったらいいなぁと思った。あの校歌がなければ、咲子の美しい声を聴くことはできなかったし、リカたちは呼吸をあわせる楽しみを実感し損ねたかもしれないし、何より卒業式は2度行えなかった。だから、そうだといいなと今も思ってる。


彼女たちのその後のことはわからない。
けれど、かのことあかりが友達なのかといえば、正直微妙だし、付属の女子大にあがる咲子と、上京する光はこれから連絡を取り合わないかもしれない。メイは大学にあがらないし、かのこも大学に落ちている。リカ達はそれでも一緒に行動するのだろうか。あの場所をもう懐かしく思うようになるだろうか。溜まってる感情を吐き出して、きれいごとで終わらせなかった。だから過去にできる。どこか決別の空気が漂う。後戻りはできないが、苦くてもたいせつな時として時を刻む。まぶしい。どこか懐かしい親しみをもって、彼女たちの巣立ちの光景をみていた。少しずつゆっくりひらいていく彼女たちはなんとかっこよいだろう。


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最初観たとき矢島さんは緊張していて、鋭い顔が氷のような冷たい役でより鋭く、さらに緊張で3倍鋭く見えた。だけど、それからの矢島さんはどんどん恋を尖らせて情感豊かになった。髪に触れられる時なんてドキリとして思わず唾をのみこんでしまった。背中を盗み見る表情もじっとり熱を帯びていたし、言い淀んで指を机に残す姿がいじらしかった。矢島さんはいつのまにかひっそりと秘密を育てていた。うつくしくよごれていたよ。まいまいは自分でもシンクロしていると宣言していたリカの正義漢の部分をさりげないとっぽさで包むのがうまかった。ドンっと突きとばすところも腕を振り払うところも声からお顔から、あんなにかわいいはずなのに、迫力がある。岡井ちゃんは頼りない肩に苦労がのって、より母性を感じた。おとなしい、というよりもまっすぐ人を思う気持ちに懐の大きさを感じる。断じて体ではない。鈴木さんは劇中悪い顔をするのをいとわなかった。プライドをすて頭を下げて真剣に謝ることを何度もしていた。その度耳が真っ赤になる。あの役も何度も何度もするには並々ならぬ体力だと思う。そして、中島さん。ああ中島さん中島さん。恐れ入るね中島さん。体力面で、はちみつ大根なんちゃらを家で作ってきてるだとか、ネットでのどにいいものを調べて出てきたものは一通り試させてもらったというプロの心がけにはとても尊敬したけれど、それ以上に心がついていかなくなってしまいそうな振り切れた演技を何度でも瑞々しく演じ切ることに驚いた。お買いものしてても台詞がぐーるぐるで、「かのこ」でいようと思ったとトークショーで言っていた。惹きつけるのは何かわからないけれど、彼女の内から次から次へあふるる水分。涙のしずくでいっぱいに満たされた瞳がキラキラキラキラと輝く。私はそのオーラをまとった姿を毛穴全部ひらいて吸い込んで、目ん玉かっぴらいて感じて、胸がはち切れそうだった。中島さんをつくる水の清さ。


マリカちゃんは他人や自分の目線の位置に敏感だろうなと思う、困惑・動揺・恥・情けなさ・許し…そういった感情表現が豊かだった。あとは舞美ちゃんの気持ちを汲んでメロメロにさせたことが本当に才能。千帆ちゃんの演技が最もナチュラルだと思った。きっと真面目なのだろうな、と思ったし千秋楽の中継USTが入った日はみちるにブチ切れる気合が凄かった。友里恵ちゃんは持ち前の空気でキャラを肉付けしていたところがやるなぁと思った。多分知らない間に台本を読みかえている。けれど、そっちの方がいいかもね、となるような感じ。多分あの方は大成する。友里恵ちゃんこそ私の後藤あかりだったよ。三館同時公演は劇場オーナーの夢だったけど、不可能なこととされていたのだという話をしていた。それをさくらは花束にできないという「あり得ないことの象徴」として、このお芝居のタイトルに込めたほど。さくらの開花、例年より早まって千秋楽の頃に満開。雨のあとは散った花びらをみつけて、咲子を思い出す。毎日すこしずつ開花の様子が移ろいゆくあの道も好きだった。


千秋楽の劇場。

最後に生徒会長、光をつとめた福永マリカちゃん、℃の千秋楽、そして菊池さんの記事がすばらしいので。
またこれについて何か書くかも。

福永マリカさん
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℃-ute
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■菊池友里恵さん
http://blog.gekipro.com/sakuranohanataba/?p=218


友里恵ちゃん、最後に泣かせてくる。
お疲れ様。おめでとう。ばんざい。好きがまたひとつ。